遠赤外加熱:理論

遠赤外線の波長区分について

我が国の遠赤外加熱関連業界では、3μmより長い波長域を遠赤外、それより短い波長域を近赤外と区分しています。その理由は、遠赤外ヒータが放射する赤外線の波長域が概ね3~25μmであり、さらに金属を除くほとんど全ての物質の熱振動(分子振動あるいは結晶の格子振動)の波長域が、丁度この波長域と一致し、遠赤外加熱の有効性を適切に裏付けているからです。

放射の基本法則

Planck(プランク)の法則

黒体(※)表面から、その片側の空間の四方八方に放射されるエネルギーは黒体の温度によってその大きさが変わり、それぞれに波長特性をもちます。この関係は、Planckにより定式化され、半球面分光放射発散度の波長特性として、右図のようなグラフで表されます。

(※)黒体:すべての波長の放射を完全に吸収する仮想的物体

図3:Planck(プランク)の法則

Stefan-Boltzmann(ステファン・ボルツマン)の法則

ある温度の黒体の単位面積から、全波長域に亘って単位時間に放射されるエネルギーの総量Qは、絶対温度で表した黒体温度T[K]の4乗に比例するという法則で、次式で表されます。

Q=σ・T4[W/m2] (ここでσはStefan-Boltzmann定数で、5.67×10-8[W/m2/K4]です。)

Planckの放射式を全波長に亘って積分すれば、この式が得られます。さらに任意の波長域において放射されるエネルギーが、波長域全体で放射される放射エネルギーのうちどれくらいの割合を占めるか、という値を計算出来るように、積分曲線、あるいは数表が用意されています。

参考文献: R.Siegel & J.R.Howell:Thermal Radiation Heat Transfer(2nd Ed.),
Hemisphere Publishing Corp., McGraw-Hill (1981)

Wien(ウィーン)の変位則

Planckの法則の図から分かるように、各温度の黒体から放射されるエネルギーは、波長に対してピーク1つの山型の曲線で、ある波長において最大値(λm)を示します。この波長λmは黒体温度Tによって変化し、高温になるに従い短波長側にシフトします。この関係をWienの変位則といい、

λm・T=2898[μm・K]

で与えられますが、この式もPlanckの法則から導くことが出来ます。

遠赤外線の放射と吸収

遠赤外線の吸収

金属を除くほとんどの物質が自身の分子振動や格子振動、すなわち熱振動を起こす振動数の領域は、波長に換算すると2.5~25μmの範囲ですが、これは波長区分のところで延べた遠赤外波長域にほぼ一致しています。従ってこれら物質に遠赤外線を照射すると、その物質内で熱振動が瞬時に励起され、温度が即座に上昇します。

遠赤外線の放射とその素材

上で述べたように金属以外のほとんどの物質は遠赤外線をよく吸収しますが、吸収率=放射率ですから、同時に遠赤外線をよく放射する物質でもあります。すなわち、そのような物質の温度を上げると、物質内部の熱振動が活発になって、その振動数に応じた電磁波が放出され、すなわち遠赤外線が放射されます。
ただし遠赤外ヒーター材料として用いるには耐熱性が必要で、遠赤外線をよく吸収し、耐熱性を有するのは、現在セラミックス物質しかありません。ほとんどの遠赤外ヒーターは表面がセラミックス物質で構成されており、その内部に電熱線が挿入されています。これに通電するとヒーター表面温度が通常数百度に高まり、遠赤外線を放射します。

遠赤外加熱のユニークな効果

遠赤外放射は金属以外のほとんどの物質において物体の表面層で非常によく吸収されるので、ほぼ理想的な放射加熱が成り立ちます。従って以下の特長があります。

  • 1)放射加熱では加熱開始から終了までほぼ一定の大きさの熱流を流せます。

    熱風、伝導など熱源を被加熱物に接触させる方式では初期には大きな熱流を流せますが、被加熱物の表面温度が早い段階で熱源の温度に近づくため、熱源と被加熱物の温度差が少なくなり、投入出来る熱流が急速に低下してしまいます。このため加熱時間が長く掛かることになります。

  • 2)放射加熱は加熱しようとする物体と直接触れることがありませんので、表面温度が急激に上がることがありません。一方でヒータから放射されるエネルギーは、物体の表面温度が上昇しても、あまり減少することなく、そのまま内部に伝わっていきます。そのため例えば乾燥を目的とする場合には、表面の熱的なダメージを防ぎながら仕上げたり、また調理などでは、食品表面を焦がし過ぎずに適度の焼き色を付けたりすることが得意です。放射加熱では、接触加熱に比べ、表面と深部との温度差が比較的に小さく保てますので、深部温度上昇が速く、より均一な加熱が可能となります。

加える放射エネルギー量は、遠赤外ヒーターへの投入電力により自在にコントロール出来るので、被加熱物に対し望ましい加熱履歴を与えることが出来、被加熱物の望ましい品質と効率的な処理の両方が狙えます。

雰囲気とは独立にパワーを与えることが出来るため、例えば冷風、外気、あるいは熱風を併用し、物体温度を抑制しながら投入パワーを高めることが出来、通常なら表面の熱損傷や焦げを生じるようなレベルのパワーの投入も可能ですが利用でき、時間短縮を果たします。
また、真空あるいは減圧下の乾燥の熱源として、偉力を発揮します。

熱風加熱のように、気流の流れを用いなくても、加熱できますので、ダスト防止対策が容易であり、よりクリーンな環境が利用できます。

これらの特長をまとめると次の図になります。

図4:遠赤外加熱効果因果関係
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